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2026.10.11 / BUSINESS / UNIQLO / PRODUCT INNOVATION

ユニクロのヒットは「当てる力」だけではない。顧客の不満を定番の進化に変える仕組み

機能性素材の手触りを確かめる手元(AI生成イメージ・実際のユニクロや東レの研究現場ではありません)

ヒートテックとエアリズムを支えるのは、生活の不便を素材と仕様の改良に変える力。AI需要予測の先にある、生産と在庫を動かす経営まで考える。

ユニクロはなぜ、ヒートテックやエアリズムを長く売れる商品に育てられるのか。新しい流行を当てるだけでは説明できない。顧客の生活に残る不便を見つけ、素材や仕様を改良し、必要な場所へ届ける。その仕組みを、公式資料から読み解く。

『暖かい』『涼しい』の先にある生活の不便

ヒートテックはユニクロと東レの共同開発商品だ。ユニクロが2023年9月に公表した世界累計販売枚数約15億枚という数字は、2003〜2022年の累計を指す。現在の累計として扱うべきではない。同年の商品発表には、薄いウルトラライトの投入、リブ商品の編地改良、超極暖の柔らかく軽い着心地への改善が並ぶ。暖かさという機能だけでなく、重ね着のしやすさや着心地を磨いている。

エアリズムも、使用場面の不満が進化につながってきた。2013年のユニクロ公式インタビューでは、通勤電車で蒸れるという声を受け、東レが糸をさらに細くして通気性を高めた経緯が紹介されている。なお、当時のウィメンズ向け素材は旭化成のキュプラと東レのナイロンの複合糸だった。全商品を東レ単独の技術として一括りにはできない。

定番は『変えない服』ではない

直近の具体例は2026年3月のエアリズム発表だ。インナーとして紫外線対策もしたいという声から、UVカットUネックTの長袖を開発し、首元の開きや袖丈を調整。顧客の要望に応じて、脇に汗取りパッドを備えたアセトリキャミソールも再販した。

ここから読み取れるのは、定番の核となる価値を保ちながら、生活の変化や使用時の不満に応じて更新する考え方だ。毎年すべてを新商品に置き換えるより、顧客理解と開発成果を積み重ねられる可能性がある。ただし、これらの改良が利益にどれだけ寄与したかを、公開資料だけから切り分けることはできない。

顧客の声を集めた後、企画へ届くか

ファーストリテイリングは2024年11月の説明会で、2024年8月期に3,140万件の顧客の声を収集・分析したと説明した。これは当時の公表値であり、2026年の件数とは区別する。有明プロジェクトは、声を集める仕組みだけではない。商品開発から販売計画、工場、物流までを連動させ、必要な商品を必要な時に届ける全社改革として位置づけられている。

企業にとって重要なのは、レビューを集計すること自体ではなく、『丈が合わない』『汗が気になる』といった声を、次の素材・型紙・仕様の判断に変えることだ。どの部署が受け取り、いつ試作し、誰が変更を決めるのか。その経路まで整って初めて、顧客情報が商品になる。

AIで予測できても、すぐ増産できるとは限らない

2021年10月の公式説明資料には、GoogleとAIを使った需要予測モデルを開発し、予測を販売計画へ反映する取り組みが明記されている。販売計画を生産・在庫計画へつなぐアルゴリズム、工場との情報共有、素材備蓄、輸送の短縮も合わせて説明された。2024年11月の説明では、需要予測を生産計画と連動させ、週次の生産調整が可能になったと公表している。同時に、素材備蓄や生産能力の確保も必要な取り組みとして挙げている。

予測精度が上がることと、実際の生産数量を変更できることは別の課題だ。素材の調達期間、工場の能力、発注条件、輸送日数が残る。2026年3月更新の公式ビジネスモデルでも、販売状況を踏まえ、商品企画担当者が生産部と連携して工場に増減産を指示すると説明している。AIがすべての商品を自動で自在に増減産している、とまでは言えない。

ANALYSIS / 中堅企業は『動かせる判断』から始める

FASHION SHIFTの提案は、まず初回発注、店舗間移動、値下げ時期という、実際に変更できる判断にAIを結びつけることだ。販売・在庫・気温のデータを同じ商品単位で整理し、欠品しそうな店舗と余っている店舗を見つける。値下げも売れ行きと残りの販売期間から検討する。これはユニクロが中堅企業向けに提示した施策ではなく、公開資料を踏まえた本誌の考察である。

定番を育てる商品開発と、需要に応じて数量・配置を変える運営をつなぐ。ヒット商品を一度当てることから、売れる理由を継続的に磨くことへ。学ぶべき点は、巨大なシステムそのものより、顧客の変化を意思決定へ戻す経営の設計にある。

SOURCES / 出典・元記事URL

ユニクロ:2023年ヒートテック発表(累計販売対象期間・東レ共同開発・改良)
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/corp/press-release/2023/09/23092611_HT.html

ユニクロ:AIRism開発の舞台裏・前篇(2013年)
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/corp/press-release/2013/04/040510_airism_1.html

ユニクロ:AIRism開発の舞台裏・後篇(2013年、旭化成・東レ複合糸)
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/corp/press-release/2013/04/040510_airism_2.html

ユニクロ:2026年3月エアリズム発表
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/corp/press-release/2026/03/uv_19.html

ファーストリテイリング:有明プロジェクト説明資料(2021年10月14日、6ページ)
https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20211014_tanaka.pdf

ファーストリテイリング:LifeWear説明会(2024年11月13日)
https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/news/2411131510.html

ファーストリテイリング:ユニクロのビジネスモデル(2026年3月9日更新)
https://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/uniqlobusiness.html

編集長・竹内 真はこう見る

ユニクロの強さは、商品のアイデアだけでなく、お客様の不便を見つけて改良し、それを生産・販売・在庫までつなげられるところにあると思います。定番商品も、同じものを作り続けるだけではなく、毎年少しずつ良くしていく。その蓄積が、また買いたいという理由になる。AIはこの仕組みを補強できますが、予測が出た後に誰が何を変えるかまで決めなければ、経営は変わりません。中堅企業も、最初からユニクロと同じ仕組みを目指す必要はない。初回発注や店舗間移動、値下げの判断など、自分たちが動かせるところから始める。そのうえで、顧客と商品企画の距離を短くしていくことが大切だと考えます。

AI生成イメージ。紹介企業の実際の店舗・商品・社員、過去の記録写真ではありません。