市場は縮み、服は増えた。日本アパレル50年史が経営に問いかけること

1976〜2025年の官公庁資料から、市場金額、供給点数、EC化率を読み解く。売上の拡大だけを追う経営から、自ら変化を起こす経営へ。
HISTORY / 1976年にも、在庫と国際競争は経営課題だった
日本のアパレル市場を50年という時間軸で見るとき、過去を「服を作れば売れた時代」と一括りにするのは正確ではない。1976年の経済企画庁『年次経済報告』は、婦人服やニット製品が堅調な一方、1973年ごろの輸入増などで過剰在庫が残った綿スフ織物やメリヤス肌着では、減産体制が続いていたと記している。商品分野による明暗と在庫調整は、すでに重要な課題だった。
同報告は、高度成長から安定成長へ移るなかで、需要の伸び悩み、売上競争、コスト削減要求、国際分業の進展に言及。技術力、市場開拓力、情報収集力、従業員の能力開発を求めていた。50年前の資料を読むと、変化に対応する経営の必要性は新しい話ではないことがわかる。
MARKET / 1991年15.3兆円から、2022年8.7兆円へ
経済産業省の2024年6月の繊維産業政策資料によると、衣料品等の国内市場規模は1991年の15.3兆円をピークに減少し、2022年は8.7兆円だった。差は6.6兆円、比較した2時点では約43%の減少になる。2000年代以降は横ばいの時期もあり、2020年前後には新型コロナウイルス感染症による外出制限などの影響で急減した。毎年同じ速度で縮んできたわけではない。
ここでいう市場規模は、同資料の図注にある「織物・衣服・身の回り品小売業」の推移である。小売事業所を業種で分類した名目の販売額であり、あらゆる販売チャネルの衣類だけを商品別に足した数字とは異なる。物価の変化を取り除いた実質額でもない。国内市場の長期的な変化を示す指標として読みたい。
SUPPLY / 市場金額が縮む一方、供給点数は増えた
経産省の調査資料では、国内衣料品の供給量は1990年の約20億点に対し、2022年は約37.3億点と推計されている。比較した2時点では約1.9倍だ。ただし、途中に増減があり、「現在も毎年増え続けている」とは言えない。
供給点数は外衣、下着、補整着、寝着類について、国内生産量に輸入量を加え、輸出量を差し引いた推計だ。国内生産の一部品目は従業者30名以上の企業の数値を計上しており、統計範囲の制約もある。消費者が購入した点数や、売れ残りの数を直接示すものではない。市場金額と供給量の対象範囲も一致しないため、8.7兆円を37.3億点で割って平均購入単価を算出することは避けるべきだ。それでも、金額の伸びだけを追い、商品の量を増やす経営の難しさを考える材料にはなる。
DIGITAL / EC化率は約7.5%から23.38%へ
経産省の資料では「衣類・服飾雑貨等」のEC化率は2013年に約7.5%だった。2025年8月26日公表の『令和6年度電子商取引に関する市場調査』で確認できる2024年の「衣類・服装雑貨等」は23.38%、EC市場規模は2兆7,980億円。2023年の22.88%から0.50ポイント上昇し、EC市場規模は前年比4.74%増えた。
EC化率は、対象商品カテゴリーの取引金額に占めるBtoCの電子商取引の割合である。前掲の業種別小売販売額と分母が同じではなく、「国内市場8.7兆円の23.38%がEC」と計算してはいけない。またEC化率は、購入者の人数割合や、店舗を使わなくなった人の割合でもない。オンラインで商品を知り、店舗で試着するなど、購買の途中には複数の接点がある。
名目額。「織物・衣服・身の回り品小売業」の販売額。間の年を補間していません。
出典:経済産業省の公表資料
グラフの数値を見る
| 年 | 値 |
|---|---|
| 1991 | 15.3兆円 |
| 2022 | 8.7兆円 |
国内生産+輸入−輸出の供給推計。購入点数や売れ残り数ではありません。間の年を補間していません。
出典:経済産業省の公表資料
グラフの数値を見る
| 年 | 値 |
|---|---|
| 1990 | 20億点 |
| 2022 | 37.3億点 |
BtoCの商品カテゴリー別。2013年は約7.5%。23.38%は2024年実績、2025年公表。
出典:経済産業省の公表資料
グラフの数値を見る
| 年 | 値 |
|---|---|
| 2013 | 約7.5% |
| 2023 | 22.88% |
| 2024 | 23.38% |
DATA NOTE / 50年間を一本の線で結ばない
本稿の対象は1976〜2025年。起点の1976年は当時の官公庁資料で経営環境を確かめ、定量比較は出典と定義を確認できた年に絞った。2025年は上記EC調査の公表年であり、23.38%は2024年の実績値である。2025年や2026年のEC化率として紹介しない。1976年と同一定義で連続する市場系列や、2025年の確定値は本稿では確認できていない。
グラフは市場規模、供給点数、EC化率を分け、確認できた時点のみを表示する。市場金額の減少、数量の増加、売り場の変化は重なっているが、それだけで特定企業の業績や商品の品質を説明できるわけではない。必要なのは、それぞれの指標が何を測り、何を測っていないかを理解することだ。
BUSINESS VIEW / 変化への対応を、担当者の努力で終わらせない
以上の数字からFASHION SHIFTが考えるのは、売上目標のために商品数や発注量を増やすだけでは成長を設計しにくくなったということだ。粗利益、在庫、顧客との継続的な関係を含めて、事業の質を測る必要がある。同時に、EC、データ活用、商品開発、新しい顧客接点の試行を、日常業務の合間に任せるだけでは限界がある。
新しい施策を担う人材を置き、判断できる権限と実験の予算を渡し、既存部署をまたぐ体制を設ける。売上だけでなく、検証から得た学びや収益構造の改善も評価する。これは統計が直接証明する処方箋ではなく、変化を起こす経営に向けた本メディアの提案である。
SOURCES / 出典・元記事URL
経済企画庁/1976年年次経済報告「中小企業」(内閣府アーカイブ)
https://www5.cao.go.jp/keizai3/keizaiwp/wp-je76/wp-je76-s0014.html
経済産業省/2024年6月・繊維産業政策資料(市場規模、図6)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/textile_industry/pdf/20240625_1.pdf
経済産業省/2023年度調査報告書(国内衣料品供給量)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2023FY/000493.pdf
経済産業省/繊維製品における資源循環システム検討会報告書(2023年9月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/resource_recycling/pdf/20230928_1.pdf
経済産業省/新たな顧客の獲得〜ECの動きの拡大〜(2013年等)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/textile_production_area/pdf/003_03_00.pdf
経済産業省/令和6年度電子商取引に関する市場調査(2025年8月26日公表、2024年値)
https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html
経済産業省/令和6年度電子商取引に関する市場調査報告書・衣類等の表
https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005-a.pdf
市場が縮小し、商品の供給量と売り場の構造が変わっているのに、従来と同じやり方で売上だけを追い続けてよいのか。私は、アパレル企業が売上至上主義を一度見直す必要があると思います。売上は大切ですが、在庫を積み上げたり、値引きに頼ったりして増やす売上が、将来の強さにつながるとは限りません。
変化への対応を、誰かのやる気や現場の残業に任せてはいけない。イノベーションを担う人材、判断する権限、使える予算、そして部署や横断的な体制を、経営が用意する必要があります。既存事業を守る仕事と、新しい可能性を試す仕事は、求められる役割も評価の仕方も違います。
時代が変わったから仕方がない、と受け止めるだけではなく、自分たちから変化を起こす。そのための仕組みを作ることが、これからのアパレル経営には必要だと考えます。
AI生成イメージ。紹介企業の実際の店舗・商品・社員、過去の記録写真ではありません。