スーツ離れの時代に42.5%成長。KASHIYAMAは「買われ方」をどう変えたか

価格、納期、店舗、品ぞろえを一つの購入体験へ。伸びるオーダー事業を、既存需要の獲得と新規需要の創出に分けて考える。
FACTS / 42.5%成長は、スーツ市場全体の復活を意味しない
スーツを毎日着ることが当然ではなくなった時代に、オーダーメイドのKASHIYAMAはなぜ伸びるのか。オンワードグループ全体の増収増益を扱った前回記事から一歩踏み込み、今回は購入体験と事業モデルの変化に焦点を当てる。
ただし「縮小市場なのに成長した」という整理にも注意が必要だ。オンワードの2026年1月30日付事業説明資料は、国内ビジネスウエア市場についてコロナ後は微増傾向と説明する。各社IRや矢野経済研究所を参照し、一部推計を含む主要オーダースーツブランドの売上合計は2024年が2022年の約130%とする。長期的なスーツ離れと、直近のオーダー市場の拡大は両立する。
FACTS / 正確には54億6,300万円。ブランド単独ではなく運営会社の数字
10月8日公表の2027年2月期中間決算説明資料によると、KASHIYAMAを展開するオンワードパーソナルスタイルの2026年3〜8月の売上高は54億6,300万円、前年同期比42.5%増。営業利益は2億4,300万円だった。同社の営業利益を売上高で割った営業利益率は約4.45%となる。これは運営会社別の実績であり、スーツだけの売上や利益を示す数字ではない。
今期の会社別通期予想は売上高113億1,000万円、営業利益4億2,000万円。上期の成長率をそのまま下期に延長して予想するのではなく、会社が公表する年間計画と区別して読む必要がある。
FACTS / 価格と納期を、購入のハードルに働きかける
公式ブランドサイトはクラシックスーツを税込3万3,000円から、最短1週間で届けると案内する。全商品・全時期に1週間を保証する意味ではなく、店舗案内には時期によって時間がかかる場合があると記載されている。
2026年2月の公式発表は、大連の自社グループ工場でCAD・CAMを活用し、工場から顧客へ直接届ける仕組みを説明する。同発表時点で店舗は全国70以上。出張採寸や、2着目以降のオンライン注文にも対応していた。価格だけでなく、採寸、納期、受け取り、再注文までをつないだ購入体験が特徴だ。
FACTS / 店舗とカテゴリーを広げる
最新の中間決算資料は、都心旗艦店、郊外・地方の商業施設、アウトレットでの試験展開に加え、百貨店オーダースーツ事業を継承したKASHIYAMA PREMIUMを説明する。オーダーシャツの生産体制強化、カットソーやシャツ・ブラウス、パンツなど既製品の販売も進む。コートやニットは今後の展開として記載されており、すべてが販売済みとは扱わない。
ANALYSIS / 既存需要の獲得と、新しい需要の創出を分ける
オーダーの選択肢を身近にすることは、既製品を買っていた人の乗り換えにつながり得る。一方、サイズが合う服を見つけにくかった人や、オーダーを高価で時間がかかるものと考えていた人が購入を始めれば、新しい需要にもなる。ただし、ブランドの新規顧客は市場全体の新規需要と同義ではない。他社からの移行、購入頻度の増加、初めての購入を分けるデータがなければ、その比率は断定できない。
また、運営会社の増収には出店、品ぞろえ拡張、事業継承など複数の要素がある。42.5%という数字だけで既存店の競争力向上や市場の拡大を説明するのも早い。既存店売上、新規客の獲得費用、リピート率、納期遵守率、店舗と工場の稼働率を合わせて見たい。
FACTS / 約300億円目標は、時点と年度を区別する
1月30日の公式事業資料には2030年度の売上高300億円計画がある。一方、4月公表の中長期ビジョン資料ではKASHIYAMA事業の2030年度目標は250億円と記載されている。10月10日付WWDJAPANは、保元道宣社長が2030年2月期に約300億円を目指す意向を示したと報道した。今回確認できた最新の公式決算資料では、この期限と規模の組み合わせを再確認できなかった。2030年度と2030年2月期は異なる。4月資料には一部の会社別数値にグループ会社間取引の相殺消去後の金額を使うという注記もあり、数値の差だけで目標引き下げと判断できない。報道を公式の確定計画へ置き換えない。
ANALYSIS / 縮小を嘆く前に、買われ方を作り直せるか
経営への示唆は、スーツの着用機会を増やす宣伝だけに頼らず、購入をためらう理由を事業の仕組みで取り除くことだ。買いやすい価格、納期への見通し、生活動線上の店舗、再注文の便利さ、関連商品の提案は、それぞれ顧客の不便に働きかける。商品力と販売方法、生産体制を別々に改善するのではなく、一つの体験として設計する視点が必要になる。
同時に、出店を増やせば家賃や人員、生産能力への投資も増える。規模の拡大が利益に結びつくかは自動的には決まらない。KASHIYAMAを成長事例として評価する際にも、売上の伸びと、獲得した顧客が繰り返し利用する収益構造の両方を追っていきたい。
SOURCES / 出典・元記事URL
オンワードHD/2027年2月期中間決算説明資料・2026年10月8日(運営会社実績・予想・事業施策)
https://www.onward-hd.co.jp/ir/library/056ea2a79ba77e781ab5c2675af426596add355b.pdf
KASHIYAMA/公式ブランドサイト(価格・最短納期)
https://kashiyama1927.jp/
KASHIYAMA/公式店舗案内(納期の留意事項・店舗)
https://kashiyama1927.jp/shop/
オンワードHD/2026年2月6日発表(F2C・店舗・注文方法)
https://www.onward-hd.co.jp/release/2026/20260206_1.html
オンワードHD/カシヤマ事業説明会・2026年1月30日(市場認識・2030年度計画)
https://www.onward-hd.co.jp/ir/library/kashiyama20260130.pdf
オンワードHD/中長期ビジョン事業領域別計画・2026年4月(2030年度目標)
https://www.onward-hd.co.jp/ir/management/onward_vision_2030_20260414.pdf
WWDJAPAN/2026年10月10日(社長の約300億円目標に関する報道)
https://www.wwdjapan.com/articles/2524130
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