布を切って縫う、その前提を変える。ワコール×イッセイ ミヤケが示す製造の未来

ブラジャーのカップをつくる技術が、身体を包む新しい造形へ。COCOON BODYは、日本企業の研究開発をファッションの競争力へ変える可能性を問いかける。
FACTS / 発表は2026年10月、コレクションは2027年春夏
ワコールは2026年10月7日、ISSEY MIYAKEと共同制作した「COCOON BODY(コクーン ボディ)」を発表した。作品が披露されたのは、現地時間10月2日13時に行われた2027年春夏パリ・ファッションウィーク。コレクションの年と、実際の発表年を分けて読む必要がある。
核となるのは、ワコール人間科学研究開発センターの立体成形技術「Melooop(メループ)」だ。身体と衣服の関係を探究するISSEY MIYAKEの創作と、人体研究を重ねてきたワコールの技術を組み合わせた。両社には、1977年に始まったHAI SPORTING GEARなどの協業の歴史もある。
FACTS / 生地を組み立てるのではなく、繊維から立体をつくる
メルトブロー法は、樹脂を溶かしてノズルから出し、熱風で細い繊維にして不織布をつくる方法だ。Melooopは、この方法を立体物の成形へ応用する。ロボットアームで型の動きを制御しながら繊維を吹き付けることで、平らな生地を裁断して縫い合わせることを前提としない造形ができる。
一般的な裁断・縫製では、生地から部品を切り出し、それを組み立てて形をつくる。対して今回のプロジェクトでは、胴体の型に向けて材料を積み重ね、身体を包む形を直接つくった。これは、従来の製法を一律に置き換えたという話ではない。異なる服のつくり方を、作品として示した取り組みだ。
ISSEY MIYAKEの公式説明によると、原型づくりには衣服を着せたトルソーを用いた。濡らした衣服の表情を3Dスキャンし、型へ反映する。デジタルデータだけで自動的に完成するのではなく、人がつくった形と感覚を、成形の工程へ受け渡している。
FACTS / 厚みや伸び方も設計する。環境性は範囲を分けて見る
Melooopでは、ロボットの動かし方を調整して厚みや伸び方などを変えられる。ISSEY MIYAKEは、COCOON BODYの原料となる樹脂ペレットの6割が植物由来だと説明する。植物由来という説明だけから、生分解性や製品全体の環境負荷の低さまで断定することはできない。
ワコールの2025年1月の発表は、単一素材での製造によるリサイクルのしやすさや、型への吹き付けによる廃棄材料の少なさを特徴に挙げる。2026年5月のラボ開設資料では、3Dプリンタで作る型を用いるため金型が不要で、小ロット生産に適すると説明している。型そのものを使わない製法ではない。ISSEY MIYAKEは、成形時に切り落とした材料を原料へ戻し、材料廃棄をゼロにすることも可能だと説明している。これは製造時の材料循環の説明であり、使用済み衣服の回収網が完成したことや、環境負荷全体がゼロになったことを意味しない。
FACTS / カップでは実用化済み。衣服全体の量産とは別の段階
Melooopは2020年からブラジャーのカップ部分の生産技術として実用化されている。2024年には経済産業省の人材育成プログラムを通じて用途開発を進め、doubletとの作品も発表した。COCOON BODYは、突然登場した実験ではなく、下着からファッションへ適用範囲を広げる流れの中にある。
2026年5月には、京都市南区に研究開発拠点「Melooopラボ」を開設。公式資料は、小型設備でCW-Xの高校生向けスポーツブラ用カップの量産展開を開始したと説明する。一方、今回参照した資料には、COCOON BODYの販売価格、発売日、量産規模、製造コストは示されていない。カップの量産実績を、衣服全体の大量生産が成立した証拠として扱うべきではない。
BUSINESS VIEW / 研究開発を、他社と使える事業資産へ
ここからはFASHION SHIFTの考察だ。日本企業の競争力は、ブランド名や販売網に加え、長く蓄積した人体研究、素材の扱い方、成形のノウハウにもある。ワコールの技術がISSEY MIYAKEの造形と結び付いたことは、ある企業の内部で育った知識を、別の市場の価値へ変える可能性を示す。
2026年6月にはBASFとの自動車内装向けアームレストのコンセプトモデルも発表された。これも量産採用の実績とは区別すべきだが、技術の価値を下着だけで評価しない方向は読み取れる。用途ごとに要求される品質を確かめ、社外の材料・デザインの知識と組み合わせることが、新しい事業領域への足場になり得る。
経営として次に確かめたいのは、見た目の新しさに加え、着心地、洗濯への耐久性、サイズ展開、成形時間、設備の稼働率、歩留まり、回収の仕組みだ。試作で成立することと、顧客が買える価格・供給量で事業が成立することは別の課題になる。
COCOON BODYを「縫製工場が不要になる未来」と読むのは早い。むしろ、製造方法そのものを商品価値の源泉にできるかという問いが重要だ。素材・身体・デザイン・生産の担当者が共に試作し、技術の可能性と事業の条件をつなぐ。その取り組みが、日本のものづくりを次のファッションの競争力へ変える鍵になるのではないか。
SOURCES / 出典・元記事URL
ワコール/COCOON BODY発表・2026年10月7日
https://www.wacoal.jp/news/newsrelease/202610/release193450.html
ISSEY MIYAKE/2027年春夏コレクション・COCOON BODY技術説明
https://www.isseymiyake.com/en/blogs/news/18826
ワコール/Melooop実用化・doublet協業・2025年1月29日
https://www.wacoal.jp/news/newsrelease/202501/release183614.html
ワコール/Melooopラボ開設・2026年5月27日
https://www.wacoalholdings.jp/news/pdf.html?dn=20260527549567
BASF/ワコールとの自動車用途コンセプト・2026年6月17日
https://www.basf.com/jp/ja/media/news-releases/asia-pacific/2026/06/jp-26-69
AI生成イメージ。紹介企業の実際の店舗・商品・社員、技術や過去の記録写真ではありません。