「高級ブランド離れ」は、どこまで本当か。ユニクロ・ZARAの成長から読む価格と価値

手が届く価格で、選ぶ理由をつくるブランドが成長している。ただし、増収という結果だけで高級品の顧客が移ったとは言えない。価格帯を超えて問われる「支払う価値」を考える。
FACTS / 成長していることと、顧客が移ったことは違う
10月12日の英フィナンシャル・タイムズは、ユニクロやZARAなど、ラグジュアリーより手が届きやすい価格のファッションブランドが注目されていると論じた。ただし、これは市場の読み解きであり、特定の高級ブランドの顧客が何人移ったかを示す購買追跡調査ではない。本記事でも、企業業績と顧客移動の仮説を分けて扱う。
ファーストリテイリングが10月8日に発表した2026年8月期の連結売上収益は3兆9,633億円、前年比16.6%増。事業利益は7,184億円、30.4%増だった。これはユニクロだけの数字ではなく、GUなども含むグループの実績である。また、事業利益を営業利益と同じ数値として扱わない。
ZARAを展開するインディテックスの2026年度上期は、7月31日までの6カ月で売上高197億5,500万ユーロ、前年比7.6%増。売上総利益率は58.7%となり、前年同期の58.3%から改善した。グループの増収であり、ZARA単独の売上成長率ではない。両社の決算期間と通貨も異なるため、数字をそのまま優劣比較することは避けたい。
FACTS / 価格だけでは説明できない商品提案
価格の一例を公式サイトで確認すると、ユニクロの10月16日発売予定のUNIQLO and JW ANDERSONでは、フリースショートブルゾンが4,990円と案内されている。ZARAのOriginsコレクションでは、ウール100%のレギュラーフィットスーツブレザーが2万5,990円で掲載されていた。10月13日の確認時点の表示価格であり、前者は発売前の商品、後者の素材説明は裏地を除く。商品の種類が異なるため、品質や価格の直接比較には使えない。
この幅は、ユニクロとZARAを一律の「中価格帯」とすることにも注意を促す。価格帯の呼び方は、地域、商品カテゴリー、比較対象によって変わる。確認できるのは、同じブランドの中でも、用途や素材、デザインに応じて異なる買い方が提案されていることだ。
FACTS / 値上げで伸びた市場が、価値を問い直されている
背景として、マッキンゼーとThe Business of Fashionの2025年1月の分析は、2019〜2023年のパーソナル・ラグジュアリー市場の成長の8割超が値上げによるものだったとする。2026年8月公表の顧客調査も、米国・中国の2,000人超を対象に、商品に加え感情的なつながりや体験が重視されると分析する。ただし、両資料はユニクロやZARAへの顧客移動を直接測ったものではない。
企業側の説明では、ユニクロは機能性商品や新しいシルエット、商品・売場・情報発信の連動を成長の要素に挙げる。インディテックスは商品提案、接客、店舗とオンラインの統合を重視する。こうした戦略は、低価格だけで支持を得ているという解釈を狭める材料になるが、各施策の売上寄与を分離した数値ではない。
BUSINESS VIEW / 顧客は、ブランドを丸ごと乗り換えるのか
ここからはFASHION SHIFTの考察だ。ラグジュアリーの値上げを受け、顧客が別の価格帯を選ぶ可能性はある。しかし、ある日は高級バッグを買い、日常のシャツはユニクロを選ぶ人も考えられる。購入回数を減らす、買うカテゴリーを変える、中古を選ぶ、購入を先送りするなど、反応は一つではない。
したがって、手が届きやすいブランドの増収を、そのまま「高級ブランド離れ」の証拠にすることはできない。新規出店や海外進出によって顧客が増えている可能性もある。元の購入ブランド、購入頻度、使った金額、用途まで追えて初めて、移動の実態が見えてくる。
BUSINESS VIEW / 安いことを、価値の説明に置き換える
経営側が参考にしたいのは、価格差だけでなく、顧客が支払う理由の設計である。通勤で扱いやすい、着用感が良い、今のシルエットを取り入れられる、手持ちの服と組み合わせやすい。その用途が商品と売場で伝われば、単なる代替品を超えた選択肢になり得る。
一方、安さだけで顧客を集めれば、より安い商品が登場した時に関係は切れやすい。素材や縫製への投資、試着時の説明、サイズの選びやすさ、購入後の満足を一緒に設計したい。価格を下げる前に、今の価格で何が得られるかを顧客が理解できているかを確かめる必要がある。
BUSINESS VIEW / 値上げの先に、買う理由が残るか
ラグジュアリー側も、価格を維持するか下げるかだけで議論を終えるべきではない。顧客が以前より高い支払いを求められた時、商品の独自性、サービス、長く使う満足がその差を説明できるかが問われる。逆に手が届きやすいブランドには、価格を超える信頼を積み重ねる余地がある。
高級品と日常着を対立させるより、用途ごとに何が選ばれているかを見る。顧客の財布が厳しくなった時ほど、企業が語りたい価値と、顧客が実際に感じる価値のずれは大きな経営課題になる。今の成長は、顧客が完全に移ったという結論ではなく、そのずれを測り直すきっかけとして受け止めたい。
SOURCES / 出典・元記事URL
ファーストリテイリング/2026年8月期決算概要・2026年10月8日
https://www.fastretailing.com/eng/ir/news/2610081800.html
インディテックス/2026年度上期決算・スペイン証券市場委員会提出資料
https://www.cnmv.es/webservices/verdocumento/ver?t=%7Bfd6314ae-a7a5-44fe-9edb-5cafcb617c95%7D
ユニクロ/UNIQLO and JW ANDERSON公式商品・発売予定価格
https://www.uniqlo.com/jp/ja/women/special-collaboration/uniqlo-and-jw-anderson?sort=1
ZARA/ウール100%レギュラーフィットスーツブレザー・公式商品情報
https://www.zara.com/jp/ja/%E3%82%A6%E3%83%BC%E3%83%AB100-%E3%83%AC%E3%82%AD%E3%82%99%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%88-%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%84%E3%83%95%E3%82%99%E3%83%AC%E3%82%B5%E3%82%99%E3%83%BC-p01223554.html
Financial Times/中価格帯ブランド再評価の論考・2026年10月12日
https://www.ft.com/content/ac617b3d-4506-4c26-aff8-64ab14a66f4f
McKinsey / The Business of Fashion/State of Luxury 2025・過去の成長に占める値上げの寄与
https://www.mckinsey.com/industries/retail/our-insights/state-of-luxury-2025
McKinsey/State of Luxury 2026・米国中国顧客調査・2026年8月6日日本語版
https://www.mckinsey.com/jp/our-insights/state-of-luxury
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