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2026.10.16 / RETAIL / ISETAN MITSUKOSHI

1,000万円以上購買顧客の売上が17%増。三越伊勢丹に見る「百貨店本来の強さ」

架空の百貨店の接客テーブルで、販売スタッフがジャケットと素材を顧客に提案する手元のAI生成イメージ。三越伊勢丹の実際の店舗・商品・社員ではありません。

伸びているのは顧客の人数か、売上か。公式IRの対象期間とグループ指標を確認し、外商と専門的な接客から、百貨店が長期的な顧客関係を育てる意味を考える。

FACTS / 高額購買顧客の「人数」ではなく「売上高」が伸びた

三越伊勢丹ホールディングスが2026年8月13日に公表した2027年3月期第1四半期決算説明会資料によると、2026年4〜6月の「グループ1,000万円以上購買顧客売上高」は前年同期比117%、「グループ300万円以上購買顧客売上高」は116%だった。それぞれ売上高が17%、16%増えたという意味であり、顧客人数の増加率ではない。

両指標は「国内顧客動向」の中で示されたグループの顧客区分別指標だ。伊勢丹新宿本店だけの実績ではなく、海外顧客を含めた連結売上高全体の伸び率でもない。図表の区分名は「以上」であるため、本記事もこの表記に合わせる。

FACTS / 114%・108%は、一年前の四半期資料の数字

同じ組み合わせの114%・108%は、2025年8月8日公表の2026年3月期第1四半期資料に載っている。対象は2025年4〜6月で、比較先は2024年4〜6月だ。いずれも高額購買顧客の売上高前年比であり、2026年の顧客数の伸びとして紹介することはできない。

最新の2026年4〜6月の前年比は2025年4〜6月との比較である。下表はそれぞれの四半期の前年同期比を並べたもので、同じ顧客を固定して2年間追跡した調査を意味しない。

公式図表の指標2025年4〜6月
2024年同期比
2026年4〜6月
2025年同期比
グループ1,000万円以上購買顧客売上高114%(14%増)117%(17%増)
グループ300万円以上購買顧客売上高108%(8%増)116%(16%増)

FACTS / 年間購買額の区分と、四半期の売上集計は別

旧説明要旨では年間300万円以上・年間1,000万円以上の購買顧客として説明され、最新の説明要旨も300万円区分には「年間」を付けている。最新図表の1,000万円区分は「年間」を省略した名称なので、見出しは図表の呼称に合わせた。これは、4〜6月の3か月だけで1,000万円を買った人数が17%増えた、というデータではない。

一方、年間購買額の判定が前年度実績か直近12か月か、区分を更新する時期、対象企業・店舗・チャネルの細かな範囲、名寄せの方法、同じ顧客を固定した比較かどうかは、確認した資料に明示されていない。人数と一人当たり購入額の寄与も分解されていないため、「新たな富裕層が何人増えた」とまでは読み取れない。

また、1,000万円以上の層と300万円以上の層は、金額条件が重なる。独立した二つの市場として売上を足したり、伸び率を合算したりするものではない。

BUSINESS VIEW / なぜ、高額購買顧客の利用拡大が重要なのか

ここからはFASHION SHIFTの経営分析である。高額購買顧客との関係を考える際、単価の高い商品が売れたという説明だけでは不十分だ。同じ人が、衣服だけでなく靴、宝飾、食品、ギフトなどへ利用を広げる場合と、たまたま一度だけ高額商品を購入した場合では、次の売上の生まれ方が異なる。企業にとって重要なのは、購入の背景を理解し、次の相談にも応えられる関係を持てるかである。

会社も2026年8月13日の決算説明会の質疑応答で、年間300万円以上の顧客による購買分野の広がりと客単価向上が売上をけん引していると説明している。これは会社側の業績要因の説明であって、高額購買層の人数が同率で増えたという意味ではない。

売上の伸びと利益の伸びも分けて見たい。高額品であっても商品ごとに粗利益率が異なり、専門的な接客には人員や時間が必要になる。会社は同四半期の決算で売上成長とともに経費コントロールも説明しているが、高額購買層別の利益や利益寄与額は確認できない。今回の売上指標だけで「この顧客層が増えた分だけ利益も増える」とは言えない。

FACTS / 外商の接点を、グループでつなぐ

三越伊勢丹ホールディングスレポート2026は、2026年度に「グループ外商統括部」を新設し、首都圏・地域・海外の外商連携を統括する体制を示している。顧客理解をもとに希少な商品や体験、グループ各社のサービスを提供する方針で、接点を一店舗の売場だけに閉じない考え方だ。

また、最新の決算説明会の質疑応答では、個人外商でAIを使ったレコメンド提案を実施し、より広い範囲への展開に取り組んでいると説明した。全顧客への導入完了や、AI単独による売上効果が示されたものではない。担当者の提案を支える仕組みとして読みたい。

FACTS / 専門的な接客を、具体的なサービスにする

確認できるサービス例が、伊勢丹新宿店の「ISETAN STYLING Robe」だ。公式案内では、パーソナルカラー診断や骨格スタイル分析などの専門資格を持つスタイリストが、診断に基づく着こなしを提案し、一緒にフロアを巡って商品を探すサービスを紹介している。公式案内では2025年10月1日から、三越伊勢丹カスタマープログラムのゴールドステージ以上を対象としている。利用条件や料金は予約時に公式案内で確認する必要がある。

これは伊勢丹新宿店のサービスの一例であり、グループの高額購買顧客売上をそのまま同店の成果へ置き換える根拠ではない。今回の売上増加がこのサービスによって生じたと実証されたわけでもない。

BUSINESS VIEW / 商品の希少性だけでなく、相談する理由を育てる

商品そのものが希少であることに加え、自分に合う選択肢を探してもらえること、使用場面まで相談できること、購入後にも頼れることには、価格表だけでは比較しにくい価値がある。こうした対応を継続するには、個々の販売員の経験だけに頼らず、顧客の希望を適切に引き継ぎ、専門性を育てる運営が必要になる。これは編集部の分析であり、今回の売上伸長への寄与を測定した結果ではない。

高額購入を一度獲得して終えるのか、長く相談してもらえる関係へ進めるのか。百貨店の競争力を考える評価軸は、価格や品ぞろえの広さだけでは足りない。顧客を深く理解する仕組みと、担当者が向き合う時間を両立できるかが、継続的な利用を支える経営課題になる。

編集長・竹内 真はこう見る

百貨店は、もともと高額購入者を大切にしてきた小売業態です。今回、高額購買顧客の利用が伸びていることも、単に富裕層ビジネスが好調だという話だけで捉える必要はないと思います。むしろ、百貨店が本来得意としてきた仕事を、しっかり実践している結果ではないでしょうか。

百貨店の強みは、商品を並べて販売することだけではありません。顧客一人ひとりを理解し、信頼関係を築き、長く買い物を楽しんでもらうことにある。価格競争や利便性だけでECと勝負するのではなく、百貨店だからこそ提供できる価値を磨くことが大切だと考えています。

今回の数字は、百貨店の原点にこそ、これからの成長のヒントがあることを示しているように感じます。

SOURCES / 出典・元記事URL

AI生成イメージ。紹介企業の実際の店舗・商品・社員、技術や過去の記録写真ではありません。