日本の繊維産地に迫る担い手不足。高付加価値のものづくりをどう継承するか

東京テキスタイルスコープでは産地の技術や新しい用途への提案が目立った。一方、丹後の調査には経営者の高齢化と承継の課題が表れる。技術を次代へ渡すために、採算と人材育成をどう結びつけるか。
FACTS / 展示会で見えた、産地の技術を伝える動き
第4回「Tokyo Textile Scope 2027 Autumn/Winter」は、2026年10月14〜16日、東京都立産業貿易センター浜松町館で開かれた。主催は日本ファッション・ウィーク推進機構。事前の公式開催資料では国内外247社の出展を案内しており、日本企業だけで247社という数字ではない。「2027 Autumn/Winter」は提案シーズンで、開催年は2026年だ。
10月23日の繊研新聞の公開部分は、春の展示会より産地団体の参加が多く、職人や技術を示すパネル、産地名を掲げた展示が見られたと伝える。伝統的な技法を持つ企業が新しい用途を探る動きも紹介されている。本記事では有料本文の未読部分を推測せず、公開情報と一次資料で背景を補う。
展示会で関心を集めることと、全国的に受注や輸出が増えることは同じではない。国産素材全体の需要が増えたと断定できる統計は今回確認できていない。
BACKGROUND / 産地の価値は、工程のつながりにある
日本の繊維産地は一様ではない。尾州では毛織物を中心に、織り、糸加工、染色、整理などの専門工程が連携してきた。丹後では絹やちりめんの撚糸、製織、仕上げの技術が蓄積され、服地などへの展開も紹介されている。北陸は合成繊維を使った風合いや機能加工に強みを持ち、今回の展示会でも特集対象となった。
価値は一社の設備だけで完結しない。糸の条件に合わせて織機を調整し、後工程で狙う風合いへ仕上げる。それぞれの現場の判断がつながることで、完成した素材の品質が生まれる。特定工程の担い手が失われると、周辺企業の商品開発にも影響し得るという点が、産地を事業として考える際の重要な論点だ。
STATISTICS / 全国の事業所数と出荷額は、別の時点を見る
総務省「日本の統計2025」「日本の統計2026」の繊維工業では、事業所数は2023年6月1日の13,267から2024年6月1日の13,155へ、従業者数は228,458人から226,969人へ変化した。一方、製造品出荷額等は2022年の3,722,327百万円から2023年の3,975,020百万円へ増えている。人数・事業所数と金額は対象時点が異なる。
対象は個人経営・法人以外の団体を除き、産業分類ごとに出荷額を累積して9割を達成する範囲の事業所である。全事業所の悉皆値でも、従業者4人以上という旧系列でもない。毎年の対象範囲が変わり得るため、差の112事業所を廃業数と解釈しない。また出荷額は数量ではなく名目金額で、増加を生産量や利益の増加と同一視できない。地域別の担い手不足は、全国の集計とは別に確かめる必要がある。
FACTS / 丹後の調査が示す高齢化と承継の課題
京都産業21北部支援センターの「令和7年度 丹後織物業の景況・動向調査」は、2026年1〜3月に丹後地域の織物事業者137事業者を対象に実施し、79事業者が回答した。代表者が60歳以上だったのは57件、72%。これは回答した事業者の代表者の年齢であり、全国の繊維従業者や職人の72%が60歳以上という意味ではない。
技術継承が必要な業務では「織機調整」が55件と最も多かった。複数回答の設問であり、割合として他項目と足し合わせることはできない。事業承継の設問では、有効回答78件中「引き継ぐ予定はない」が28件、36%だった。後継者が全く存在しない企業の比率と断定せず、調査の回答として読む必要がある。
丹後織物工業組合の2026年9月分生産数量資料では、1〜9月累計の参考総数量は13メートル換算で93,887反、前年同期106,223反に対して前年比88.4%だった。地域の生産数量であり、全国の需要や出荷金額ではない。展示会での注目と、生産の現場が直面する状況は分けて見るべきだ。
FACTS / 学ぶ場と、つくって売る機会を結ぶ
京都府織物・機械金属振興センターは2026年度の丹後織物人材育成研修として17コースを用意している。製織の基礎、織機調整、現場実践に加え、デザイナーと商品開発や販路開拓を考える産地ネットワークの研修も含む。
展示会側も、デザイナーの素材開発や調達の課題を事前に集め、面談へつなぐ「JFW Fabric Connection」を案内している。技術の説明だけで終わらず、使う側の課題と結びつける仕組みだ。ただし、研修やマッチングが雇用増、受注増、利益改善を実現したと確認したわけではない。
ANALYSIS / 継承を支えるのは、技術に対価が残る経営
技術承継には、教える人の時間、試作に使う材料、設備の整備が必要になる。完成品の単価だけで交渉し、開発や教育の費用が事業に残らなければ、若い人を採用しても育て続けることは難しい。文化的な価値と、採算が取れることの両方を設計する必要がある。
ブランドとの協業では、素材の機能や風合いを、どの顧客がどんな商品で評価するのかを共有したい。発注側も、開発費、最低数量、納期、継続発注の見通しを早く相談できれば、産地側が投資や人材配置を考えやすくなる。特定の協業による成果を確認した事実ではなく、持続的な取引をつくるための提案である。
個別産地の事業所数・従業者数・生産額を、定義のそろった長期系列として示すことはできなかった。全国統計と丹後の地域調査を接続して縮小率をつくらず、それぞれの対象範囲で課題を具体化した。素材への注目を一時の話題で終わらせず、適切な対価と継続的な仕事へ変えることが継承の基盤になる。
日本のファッション産業の強みは、完成した服のブランドだけではない。素材をつくる技術、織る技術、染める技術、仕上げる技術など、産地には長い時間をかけて磨かれてきた価値がある。
しかし、優れた技術があっても、それを受け継ぐ人がいなければ産業として続かない。私は、技術の継承を単に文化を守る活動として捉えるのではなく、きちんと利益が出る事業にすることが重要だと思う。
安く大量につくる競争ではなく、その産地でしか生み出せない品質や技術を、顧客が価値を感じる商品へ変えていく。そのためには、繊維メーカーだけでなく、アパレルブランドやデザイナー、販売企業との連携も必要だ。
技術を守るためにも、まずは産地で働く人たちが適切な対価を得られること。その経済的な仕組みをつくることが、次の世代への継承につながるのではないだろうか。
SOURCES / 出典・元記事URL
《TTS27年秋冬から㊤》国産の需要が高まる 課題は産地連携や人材育成/2026年10月23日、公開部分を参照
https://senken.co.jp/posts/tts-261023
JFWO 第4回Tokyo Textile Scope 2027 Autumn/Winter 開催概要/開催2026年10月14〜16日
https://jfwtextile.com/TTS/ja/2027aw/outline.html
JFWO TTS開催概要資料/2026年9月
https://jfwtextile.com/press/ja/TTS2027AW%E9%96%8B%E5%82%AC%E6%A6%82%E8%A6%81_2026%E5%B9%B49%E6%9C%8816%E6%97%A5.pdf
国島 尾州のものづくり/閲覧2026年10月24日
https://www.kunishima.co.jp/bishu/
丹後織物工業組合 TTS出展企業紹介/閲覧2026年10月24日
https://www.tanko.or.jp/tfm/
令和7年度 丹後織物業の景況・動向調査 報告書/2026年3月、2・5ページ
https://www.ki21.jp/north/wp-content/uploads/2026/04/R7orimono-keikyo.pdf
丹後織物工業組合 令和8年9月分生産数量/2026年1〜9月累計、13m換算参考総数量
https://tanko.or.jp/wp/wp-content/uploads/2026/10/R8.9.pdf
令和8年度丹後織物人材育成研修実施要領/2026年度
https://www.pref.kyoto.jp/oriki/documents/r8kensyuyoko-itiran.pdf
総務省統計局 日本の統計2026/表9-3、印刷102頁、2026年刊
https://www.stat.go.jp/data/nihon/pdf/26nihon.pdf
総務省統計局 日本の統計2025/表9-6、印刷105頁、2025年刊
https://www.stat.go.jp/data/nihon/pdf/25nihon.pdf
AI生成イメージ。紹介企業の実際の店舗・商品・社員、技術や過去の記録写真ではありません。